読書記録95(2020年28冊目) 歴史を考えるヒント 網野善彦 著 新潮文庫 2020/05/26
日本という国名が初めて使われたのは浄御原令が発布された689年である。
つまり、689年以前は、倭というのが国名だったのである。
だから、574年生まれの厩戸皇子は日本人ではなく倭人である。
日本という国がまるで縄文時代からあるかのように錯覚してしまう現代日本人であるが、日本という国名が初めて使われたのは689年である。
また、百姓が農民だけを表しているのも間違いだと著者は指摘する。
官人と百姓の区別があり、ひゃくしょうではなく、ひゃくせい、と古代日本は読んでいたのである。百姓は、中国、朝鮮半島でも使われていて、著者は、中国人留学生から、日本では百姓が農民だけを指していることに違和感を感じる、と言われたということだ。
著者の網野善彦は、日本は多様な社会で成立していると指摘している。
例えば、被差別部落は列島西部だけで存在し、それは古代朝鮮半島国家と近似している、と指摘する。アイヌや沖縄には被差別部落は存在しないし、列島東部は被差別部落に対する感覚が、鈍い、ということだ。関東出身者が大阪で、穢多、非人と言おうものなら、危険視されてしまうほどの感覚が列島西部の人々には存在する。
被差別部落ひとつとっても日本は一律な社会ではないのである。
そして、日本列島をいつも見る地図で見ると島国に見えるが、逆さにしてみると、日本海が湖のように見えるのだ。そうなのである、日本列島とアジア大陸は頻繁に交流していたのだ。
日本史に対する思い込みが融解し、多様な日本を発見するための入門編的な本である。